探偵言いたい放題

異人「老婆」(ろうば) -前編-

 それは真夏の出来事であった。PM2時頃一本の電話がなった。依頼相談の電話であった。依頼者は、68歳の女性である。電話でのその内容は少々変わったものであった。
 依頼者の話によると、「森林も豊富な広い屋敷内に、私は現在一人で住んでおります。その屋敷内にもう10年程前から盗人(ぬすっと)が住み着いており、食べ物、お金とあらゆる物を盗まれており、更には、洋服、それに私の下着まで盗んでいくという。この様なことが起こるので数年前から外には、監視カメラも設置している」という。正直この時点で暑さとボケでやられたご老人だなと思いながら話を聞いていた。
 話は、どんどんエスカレートしていった。「その上、私の寝室の畳の中から突然現れて、盗まれた私の下着を頭に被ってジャジャジャジャーんとでてきたり…」もうこれ位でいいか、丁重にお断りしようと思い、それでは、そちらのお屋敷に伺いますので現場検証をいたしましょうと受話器から発した。たいていここでガシャンと電話を切ってしまうのが一般的である。
 そしたらなんと、住所はここで私は何々と申すものです。と言い自身の身分を明かし、アポをとりつけて電話を切ることになった。
 私は、半信半疑の思いで所在データを調べてみると、確かに実在する家であった。地図を見ても確かにとてつもなく広い屋敷である。行く前に、約束通り電話を再度かけてみるとその老人がちゃんと電話に出た。
 はっきりいって、のらない気分であり、嫌な胸騒ぎもしていたがそのお屋敷へ向かった。
 そのお屋敷に行くと私は、はっきり行って帰りたくなった…。
 少々古い家で玄関入り口の左右に確かに監視カメラも設置してある。ダミーカメラではない。しかも入り口周辺のブロック塀の上には、ヤリのような鉄の棒がギッシリ設置してあり、また、そこをバラ線で囲ってあった。私は、電話からの経緯を考えて「これはやり甲斐のある仕事だ、胸が踊る…」
 と思う訳がなく「ウェッ、帰ろっ!!」と即座に思った。
 そんな思いの中、立ち止まっている矢先、いきなり背後から声をかけられた。慌てて振り向くと、相の悪い砂かけババア風の金歯と銀歯が入り混じった老婆が岩の上に座っていた。これが今回の依頼人であった。
 私は、笑顔のヨロイを顔面に被り挨拶をした。すると老婆も機嫌が良さそうに不吉な笑顔で答えた。老婆の金歯が夏の太陽にギラギラと反射していた。
 岩の自然椅子に二人で座り接客相談業務を始めた。話すこと一時間、老婆が私を信用したのであろうか、契約を交わした後、屋敷の中に入って現場検証をすることになった。
 私は心中でつぶやいた。「もう逃げられない」
探偵言いたい放題「異人老婆の棲む館」 屋敷に入ると、裏庭の方に案内された。持参した位置確認装置をONにして現場検証を始めた。
 私は驚いた。私の目に飛び込んできたものは、森林ではない。
 ジャングルであった。よくこのような屋敷があったものだと感心した。ジャングルを探検していると突然老婆が立ち止まり「そこそこ」と指を刺した。何ですか?と尋ねると「今いた。盗人が」と激しく叫んだ。私には、何も見えなかった。確かに老婆の指を刺したところは、目を離していれば見逃してしまうような所であったが、私は、どのような状況化においてもそのような現象は、決して見逃しはしない。例えネズミが通過しようとも。
 しばらくするとまた同じことを突然言い出した「今いた」私はこれで裏をとることができたと同時に、内ポケットから黒くて太いボールペンを出して、水戸黄門の角さんがこの紋所を出すように、ウルトラマンが変身をするがごとく、ボールペンを高々と上げて言った。「これは特殊生物探知機です。今、検査を致しております」と老婆が指差した方向へ向けて…。
 イチローがバットでセンター方向を指すように腕を伸ばした。お恥ずかしいが依頼料ももらっているし仕方が無かった。しかし、時間ももったいないので外の検証を切り上げ、家の中の検証に移ることを話した。
 すすると老婆は…

異人老婆-後編につづく